特集
第1巻/「のり」のできるまで

家庭の食卓やすし屋さん、そしてコンビニのおにぎりに使われている見慣れた海苔。この海苔って実際にどんな風に作られているのか皆さんはご存じですか? 歴史をひもとけば、大宝律令(701年)には、朝廷への調(現在の税金にあたるもの) として約30種類の海藻類が挙げられており、中でも海苔は高級品だったと記録されています。 現在の海苔養殖の歴史は江戸時代に入ってからだそうです。でも海苔の養殖網は写真などで知っていても、お店で売られているような四角く乾いた海苔がどのようにして出来上がるのか、知っている人は少ないのでは・・・。 「海苔ってどうやって出来るの?」 そんな疑問に少しでもお応えしようと、今回のレポートはスタートしました。

■いざ、二見町の海苔養殖場へ!
 2月の立春も過ぎた日差しも穏やかなある日、二見漁港から船に乗って海苔の漁場へ向かいました。 船を運転していただいたのは、二見漁港でお仕事をされている豊田真一さん(54)。そして同行していろんなお話をうかがったのは、二見町漁港の黒田秀夫さん(36)です。港から沖へ向かって約5分、リアス式海岸に広がるこの漁場では、水面に網を浮かべて養殖する「浮き流し式養殖」と海底から支柱を立てて網を張る「支柱式養殖」のふたつの方法で海苔が育てられています。「浮き流し式」は水深5m位、「支柱式」は水深2.5mほどの海域で養殖網の海苔たちは気持ち良さそうに波間に漂っていました。


■生の海苔を食べてみたいっ!
 海苔の養殖網は1枚3m×1.5mが6枚連なっているのが基本。二見の海にはおよそ500枚の網が浮かんでいます。網に船を寄せて「こんな感じで海苔が育っているんですよ」と海面から引き上げられた海苔は、なんだかただの黒い藻のように見えました。「これちょっと食べてもいいですか?」とすかさず船から体を伸ばして海苔の破片をちょうだいし、おそるおそる食べてみる。「あ、けっこう歯ごたえがありますねぇ」採りたての生の海苔は、ワカメのような歯ごたえと潮の香りがしました。「地元の漁師たちは、これを三杯酢で食べるんですよ。これがウマイ!12年間食べていますがいまだに飽きませんねぇ」と黒田さんは嬉しそうに話されます。味噌汁に入れても美味しいらしく、生産者だけが味わえる特権なんだそうだそうです。


■ウラ夫婦岩観光のオマケ
 海苔の養殖場の視察を堪能し、一路港へ向かうと思ったら船はなんと夫婦岩へ向かいました。裏側から見る夫婦岩は、なんか不思議な感じがした。絵葉書にもポスターでも見られないウラ夫婦岩。船の真下には、海の底、深くて見えないが御神体もあるそうです。思いがけない観光案内にかじ取りの豊田さんに感謝。さぁ、そろそろ工場では、海苔が出来上がってくる時間です。この生海苔がどうやって、あの四角い海苔になるのか見に行きましょう。
■近代的設備の加工場に驚く!
 二見漁港で陸揚げされる海苔の加工場は、30軒。その中の1軒をのぞかせていただいた。ここでお話をうかがったのは、笑顔の素敵な長谷川まさみさん。漁師の家に嫁がれてきて、今ではこの工場で家族とご一緒に作業に従事されています。加工場に入ってまず驚いたのは、何やら大きな機械が所せましと並んでいること。印刷工場のような輪転機に似た機械もあるし、想像していた世界とはまったく違っていました。

■洗って、刻んで、抄いて、乾かす。
 まず陸揚げされた海苔を、珪藻類を落とすため攪拌タンクで海水を使って洗います。その後真水で水洗いし、海苔に付着した海のゴミ(木の葉や藻くずなど)を異物除去機にかけて取り除きます。そして意外だったのが、この後の海苔を小さく刻む「ミンチ」と呼ばれる工程。戦前までは海苔を包丁で刻んでいたそうです。さらに海苔と水の混ざり具合を調整して、いよいよ抄きの工程になります。ここで初めて市販されている海苔のサイズにお目にかかれます。一枚一枚機械で抄かれた海苔は、簀(すのこ)に張り付き、スポンジで脱水されて乾燥機に入っていきます。乾燥機の温度は40度前後。温度管理もすべて自動です。



■最後のチェックはやはり人の目と手で。
 乾燥された海苔は、自動的に1帖(10枚)ごとに重ねられて二つ折りで縛られていきます。この前段階で、キズや穴があったり、汚れがついているものはセンサーではねられます。汚れの付着した海苔は、一枚一枚長谷川さんの手によって、ていねいに汚れが取り除かれていきます。そして質の良い海苔から、穴あきの海苔、キズのある海苔などが選別された状態で、最後の検査場に運ばれていきます。

■チ・丸・シ・C???
 検査場でまず目に付いたのが、不思議な記号のついたはんこ群。海苔のランク付けは上位から、「重優上・重優・特上・特」。これは漢字で大体見当がつきます。でも「チ−1」や「シ−2」ってどういう意味? さっそく豊田さんに聞いてみました。「『チ』は海苔の表面が縮んでいるもの、『丸』は小さな穴が開いている状態、『シ』は死んだ葉が混在しているもの、『C』は汚れが付いている海苔を指しています。それぞれ1から3までのランクがあります」ちなみに重優上の海苔とランクの低い海苔を比べてみると、確かに色の濃さや表面の光沢違います。「でもいちがいにこのチ・丸・シ・Cの海苔が悪いとは言えないのです。この中にも重優上クラスの品質を持つものもありますから」 なるほど、海苔はいろんな用途に応じて納品先が決まっていくのですね。ちなみにコンビニおにぎりの海苔は、中くらいのランクがよく使われているということでした。

■コンビニおにぎりの海苔は厚い!
 「そういえばコンビニおにぎりの海苔は、普通の海苔よりも厚いと聞いたことがありますが」と尋ねると「最近では、従来よりも厚めの海苔の需要が増えてきていますね。回転寿司の軍艦巻きに使われている海苔も厚いですよね」というお返事。海苔の厚みも時代と共に少しづつ変化していくのでしょうか。現在国内では年間90億枚から100億枚の海苔が生産されています。今後、コンビニおにぎりや回転寿司での需要度は益々増え続けていきそうな気がしました。

■やっぱり地産地消がいい
 「そうすると寿司専門店用の海苔と回転寿司用の海苔は、 生産の段階で区別されているのですか」と更なる疑問をぶつけてみました。 「ひとつの漁港、加工場でそれらを作り分けているのではなく、全国に数多くある海苔養殖場では、その海域それぞれで海苔の特徴が違います。 どこどこの浜の海苔はおにぎりに適していたり、違う浜の海苔は専門店の海苔に合っていたりという特徴にあわせて納入先が決まっていくのでしょう」とお答えいただきました。
取材させていただいたみなさま、ありがとうございました。

撮影: 松原 豊  文: 立岡 茂